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福島家庭裁判所 昭和42年(家)1761号 審判 1967年8月10日

申立人 河本孝行(仮名)

法定代理人親権者母 河本はる子(仮名)

主文

本件申立は、これを却下する。

理由

一、本件申立の要旨

申立人は、申立人の氏「河本」を父の氏「田畑」に変更することを許可する旨の審判を求め、その実情として、申立人は、昭和四〇年四月一四日河本はる子の子として生まれ、同四二年二月二三日父田畑治から認知されたが、出生以来父の監護養育を受けており、今後も同様の関係が続く予定なので、判然と父の氏を称したく本申立に及ぶ次第であるというにある。

二、事実関係

そこで、当裁判所昭和三八年(家)第三三九号養子縁組事件及び同年(家イ)第四四号夫婦同居調停事件各記録並びに本件記録中の申立人とその父田畑治の各戸籍謄本及び家庭裁判所調査官の調査報告書二通によると、申立人の父は申立人の近所である福島県伊達郡○○町字○○七〇番地で医師として開業しているものであるが、昭和一九年四月一〇日本田悦子と婚姻し、同女との間に長女孝子、長男透、二男仁、二女葉子を儲けているものであるところ、同三一年九月頃申立人の母と知合つて、その生活一切の世話をするようになり、申立人の母との間に、同三三年二月一三日繁が、同四〇年四月一四日申立人が出生したこと、繁は同三八年四月一三日その父から認知され、父母の協議で親権者を父と定め、父が繁の代理人となつて繁の氏の変更許可申立がなされ、これにつき許可されて繁が父の氏田畑を称していること、繁につき、その認知前父からその妻との名義で、当裁判所に繁との養子縁組許可の申立があつたが、調査の結果、該申立は妻悦子に相談なく不知の間に提出されたこと、妻悦子が養子縁組に反対していたため申立人の父がこれを取下げたこと、申立人の父は同三八年頃から上記記載の本宅で日中診察、往診等の業務を行ない、妻のつくつた昼食、夕食を食べ、夕方申立人の母の許にいき、申立人の母、繁、申立人等と一緒に生活し、朝食をとつた後本宅にいく生活を続けていること、申立人の母の子は本宅に、申立人の父の妻の子は申立人方に夫々出入しているが、申立人の父の妻は上記養子縁組に賛成しなかつたばかりか、縁組の申立につき審理中申立人の父を相手方として当裁判所に夫婦同居の申立をしたが、本宅には申立人の父の両親が同居していて同人等から事態がますます悪化するからと反対されたため、一回も調停しないでこれを取下げたこと、申立人の父の妻は、繁の氏変更の際は己むを得ないとの意見であつたが、申立人の場合は、当裁判所調査官の呼出に応じなく、家庭裁判所調査官の電話照会に対しても、申立人の母に反感を示し、本件申立についても半ば諦めた心境で、自分一人の反対ではどうにもならない、反対はしないとの回答であつて、本件申立について賛成しているものでないと推認されること、本件申立については、申立人の母から申立人の父が相談を受け、これに賛成したこと、申立人の父の妻は申立人の父の両親に仕え、申立人の父との間の四人の子女の養育に専念していること等が認定出来る。

三、判断

子の氏の変更許可申立の許否については、氏は個人の呼称であつて、父母の一方の氏に改められるに過ぎないから何等呼称秩序を紊すものでないこと、婚外子が本妻と同一戸籍、同一氏を称しても、本妻と婚外子との間には嫡母庶子関係は勿論、親権、扶養、相続等身分上の権利関係を生じるものでないこと等の見地から、民法第七九一条第一項第二項の存否を審査するだけで許否を決すべきであつて、許可すべきかどうかにつき、家庭裁判所に十分な自由裁量権がなく、本妻の反対は、本妻がその氏を称させたくないという感情にすぎないとする説がないわけではない。

しかし、新民法第一条ノ二は、本法ハ個人ノ尊厳ト両性ノ本質的平等トヲ旨トシテ之ヲ解釈スべシ、と規定し、家事審判法第一条は、この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする、と定めているのであるから、呼称秩序や、法律上の権利義務の関係の外、子の氏の変更の許否の基準については、新民法、家事審判法を十分考慮し、申立人の父の妻と嫡出家庭の意向を十分斟酌して定めるのが相当であるといわなければならない。

してみると、前認定のような事実のもとでは申立人の父において、夫婦関係の調整に何等努力していないし、申立人の父の妻も当裁判所調査官の調査のための呼出に応じないばかりか。半ば諦めたような心境であり、しかも、今申立人の父の両親に仕え、四人の子女の養育に専念している現在、申立人の母の子は本宅に、申立人の妻の子は申立人方に夫々出入していても物事に対する識別が出来る年齢に達すれば互に憎悪の感情の生れることは必然的であり、申立人の父の妻の意に反し、本件申立を許可することは、申立人の父の妻の感情上の問題の外、既に葛藤を生じている夫婦間の仲を更に一層刺激助長し、一家の平和を紊し、健全な共同生活を破壊するものであつて、新民法一条ノ二、家事審判法一条の法意に添わないものというべきである。

よつて本件申立は、その理由がないものとして却下するのが相当であると認定し、主文の通り審判した。

(家事審判官 早坂弘)

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